一級建築士試験:令和4年の製図課題「事務所ビル」の課題背景とポイントを解き明かします

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一級建築士

こんにちは、独学家(セルフ・ラーナー)のKuroです。

このブログでは、独学での大学受験や一級建築士試験、海外留学についてのノウハウを発信しています。

こちらの記事では、一級建築士試験の学科・製図共に独学で一発合格したKuroが、令和4年の一級建築士設計課題「事務所ビル」の課題背景と想定される設計条件について考察してみます。

考察する上では、事務所ビルの在り方に関する最近の潮流や、試験の総本山である国土交通省の取り組みを分析してみます。

結論を先に紹介すると、こちらとなります。

課題の背景
  • コロナ禍に伴うテレワークの増加
  • オフィス改革の推進
  • 「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」に伴う二酸化炭素排出量の削減
試験のポイント
  • フレキシブルオフィス(シェアオフィス)
  • 国土交通省が推進するオフィス改革(フリーアドレス、リフレッシュルーム、託児所など)
  • 一次エネルギー消費量の削減
設計条件の可能性
  • 立地条件:都心の事務所ビル、または郊外の事務所ビル(サテライトオフィス)
  • 部門分け:通常の賃貸・所有オフィス部門、フレキシブルオフィス部門、社会参画部門
  • 計画の要点等:一次エネルギー消費量を抑えるために行った方策

はじめに

2022年7月22日に(公財)建築技術教育普及センターのHPにおいて令和4年の製図課題が発表されました。

令和4年の製図課題は「事務所ビル」、サブタイトルはありません。類似の課題は平成21年の「貸事務所ビル」があり、13年ぶりの出題となります。

サブタイトルがないため的を絞りにくいですが、このような課題となった背景を知れば的を絞った対策を練ることも可能です。そこで、こちらの記事では、一級建築士試験において「事務所ビル」を課題とする背景と試験のポイントを考察してみます。

令和4年の製図課題「事務所ビル」

要求図書

  • 1階平面図・配置図(縮尺1/200)
  • 各階平面図(縮尺1/200)

  ※各階平面図については、試験問題中に示す設計条件等において指定する。

  • 断面図(縮尺1/200)
  • 面積表
  • 計画の要点等

 
(注1) 建築基準法令等に適合した建築物の計画 (建蔽率、容積率、高さの制限、延焼のおそれのある部分、防火区画、避難施設 等)とする。
(注2) 「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」に規定する「建築物移動等円滑化基準」を満たす計画とする。

建築物の計画に当たっての留意事項

  • 敷地の周辺環境に配慮して計画する。
  • バリアフリー、省エネルギー、二酸化炭素排出量削減、セキュリティ等に配慮して計画する。
  • 各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
  • 建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
  • 構造種別に応じた架構形式及びスパン割りを適切に計画するとともに、適切な断面寸法の部材を計画する。
  • 空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、昇降機設備等を適切に計画する。

注意事項

「試験問題」及び上記の「建築物の計画に当たっての留意事項」を十分に理解したうえで、「設計製図の試験」に臨むようにしてください。
なお、建築基準法令や要求図書、主要な要求室等の計画等の設計与条件に対して解答内容が不十分な場合には、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」等と判断されます。

事務所ビルの在り方に関する潮流

先ずは、事務所ビルの在り方に関する潮流を見てみましょう。

リモートワークの増加

事務所ビルの在り方に最も影響を与えた(えている)のは、コロナ禍によるリモートワークの増加でしょう。

内閣府が行っている「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、コロナ禍を踏まえてテレワークを実施する人の割合が急激に上がっています。これは特に都心で顕著であり、令和4年6月時点で50%以上の人がテレワークを導入しています。

テレワークの利用者推移。コロナ禍を踏まえてテレワーク実施者が飛躍的に増えている。
参照:内閣府

そして、テレワークが増えたことにより、今までとは異なるオフィスの利用形態が生まれてきています。

働き方改革

事務所ビルを課題とする二つ目の背景は、政府の進める「働き方改革」です。

働き方改革とは、労働人口が減少している日本において、一人でも多くの人が活躍できる社会を目指し、働く人びとが、個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を、自分で「選択」できるようにするための改革、です。

そして、この働き方改革を推し進める一つの施策がオフィス改革です。

オフィス改革とは、オフィスのレイアウトやデザインを変更することで、社員が働きやすい環境を整備して、生産性を上げる試みを指します。民間企業だけではなく、公的機関(例えば総務省)も取り組んでおり、近年注目の集まっている試みです。

事務所ビルの潮流を踏まえた出題のポイント

では、リモートワークの増加とオフィス改革という背景は、実際のオフィスにどのような変化をもたらしているのでしょうか。

ここでは、「賃貸方法」と「オフィススペースの使い方」という二つの観点から考察してみます。

オフィスの賃貸方法

まず初めに、オフィスの賃貸方法が変化していることが挙げられます。

テレワークの増加と働き方改革の推進により、通常の賃貸オフィスに加えて、フレキシブルオフィスへの需要が高まってきています。

株式会社日本能率協会総合研究所によると、フレキシブルオフィスのマーケットは今後、右肩上がりで増加していくと予測されています。

では、そもそもフレキシブルオフィスと従来の賃貸オフィスとの違いは何なのでしょうか。

大きな違いは、従来の賃貸オフィスは借主自ら設備を整える必要がある一方で、フレキシブルオフィスではデスクや情報機器などの設備が予め整備されているということです。その上で、フレキシブルオフィスにはレンタルオフィス、シェアオフィス、コワーキングスペースなどの違いがあります。

  • レンタルオフィス:オフィスビルの1フロアもしくは1棟をレンタルオフィス業者が借り上げて、内装で区切って貸し出す物件
  • シェアオフィス:オフィススペースを複数社で共有して利用する物件
  • コワーキングスペース:利用者同士の交流を促すことを意図した物件

特に、シェアオフィスは製図試験の「部門」または「要求室」に含まれる可能性は十分にあると考えられますので、事前によく把握しておきましょう。

参考として、フレキシブルオフィスに関連したいくつかの事例はこちらとなります。

フレキシブルオフィスの事例

オフィススペースの使い方

次に、オフィススペースの使い方が変化してきています。

通常の賃貸オフィスや所有オフィスを前提としても、働き方改革を促進するために様々な工夫がなされてきています。例えばフリーアドレスリフレッシュスペースオフィス内託児所やフィットネスルームの導入などです。

フリーアドレスとは?

従来のオフィスのように固定席を設けずに、社員がデスクやスペースを自由に選ぶことができるワークスタイルのことです。これにより、コミュニケーション活性化や連携強化が期待できます。

そしてこれらは、一級建築士試験の総本山である国土交通省が提唱している取り組みでもあります。

一級建築士試験の事務は建築技術教育普及センターが行っていますが、あくまでも試験の取り纏め母体は国土交通省(住宅局)です。そのため、製図試験の課題背景を読み解く際には、国土交通省としてどのような取り組みを推進しているかを把握するのが大変有効です。

そのような考えに基づき「2030年を目途とする今後の不動産のあり方について」は一読に値します。

こちらの資料によると、イノベーションを促進多様な主体の社会参画自由に職場を選択テレワーク、などがキーワードとして挙げられています。また、これらの具体例であるフリーアドレスリフレッシュスペースオフィス内託児所、フィットネスルーム、カフェは、製図試験の要求室として課される可能性が十分にあります。

Kuro
Kuro

試験元(国土交通省)の取り組みを把握することで、製図試験の課題背景を考察できます。

建築物の潮流

いままでは事務所ビルの潮流の観点から課題背景を考察しましたが、ここからは建築の潮流という観点から課題背景を考察してみます。

令和4年一級建築士試験の課題発表では例年と異なる点が一つありました。それは「建築物の計画に当たっての留意事項」における「二酸化炭素排出量削減」です。

二酸化炭素排出量削減の必要性

ではなぜ二酸化炭素排出量削減が特記されたのでしょうか。これも、試験の総本山である国土交通省の資料から考察します。

国土交通省の資料によると、建築部門のエネルギー消費量は、日本における全エネルギー消費量の約1/3を占めています。そのため、建築物部門の省エネ対策の抜本的強化が必要不可欠、と結論付けています。

そして省エネを推進するために制定されたのが「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」です。

これは、建築物のエネルギー消費性能の向上を図るため、住宅以外の一定規模以上の建築物(今回の課題は適応されます)のエネルギー消費性能基準への適合を義務付けるものです。

このように、試験の総本山である国土交通省は、事務所ビルを含めた建築物のエネルギー性能を向上させて省エネを実現させたい、という願いがあります。

建築物の潮流を踏まえた出題のポイント

では、エネルギー消費性能基準(省エネ基準)とは何なのでしょうか?

国土交通省の資料では、建築物が備えるべき省エネ性能の確保のために必要な建築物の構造及び設備に関する基準であり、一次エネルギー消費量基準外皮基準からなる、とあります。更に、令和4年の改定では、木材利用の促進、という観点も出てきています。

Kuro
Kuro

製図試験では、一次エネルギー消費量基準が特に重要だと考えています。

一次エネルギー消費量基準

一次省エネ基準とは、設計一次エネルギー消費量/基準一次エネルギー消費量が一定の数値以下になることが求められるものです。

一次エネルギー消費量に関する考え方。設計一次エネルギー消費量が基準一次エネルギー消費量を下回っている必要がある。
参照:国土交通省

そして一次エネルギー消費量は、空調エネルギー、換気エネルギー、照明エネルギー、給湯エネルギー、昇降機エネルギー、その他エネルギー、(マイナス要素として)太陽光発電等による創エネ量、から成り立っています。つまり、これらの設計一次エネルギー消費量をできるだけ小さくした方が、エネルギー消費量を抑えられるということです。

そのため製図試験では、建築計画において一次エネルギー消費量を抑えるために行った方策を問われる可能性があります。図面での表現が求められることもあり得ますが、恐らくは計画の要点等(記述)において問われるでしょう。

外皮基準

外皮基準は、外皮(外壁、窓等)の表面積あたりの熱の損失量(外皮平均熱貫流率等)が基準値以下となることを要求しています。

しかし、この外皮基準は基本的に住宅へ適用されるものであるため、今回の課題である事務所ビルでは問われることはないと思われます。

木造利用の促進

木造利用という観点では、3000㎡超の大規模建築物の全体の木造化、大規模建築物における部分的な木造化、低層部分の木造化、などの取り組みが促進されています。

しかし、これらは生まれて間もない取り組みであるため、外皮基準と同様に恐らくは今回の製図試験で問われることはないのではと考えています。

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事務所ビルの想定課題条件

これまでは課題背景について考察しました。では、このような課題背景に基づくと、事務所ビルとしてどのような出題が考えられるのでしょうか。

ブログ主であるKuroが考えるポイントはこちらとなります。

想定する立地

最初に、想定される立地です。

ブログ主のKuroは、大きく次の2パターンがあるのではないかと考えます。

  • パターン1:都心の事務所ビル
  • パターン2:郊外の事務所ビル(サテライトオフィス)

パターン1の理由は、都心では5割以上の人がテレワークをしていて、且つフレキシブルオフィスの大多数は都心にあるという事実に拠ります。この場合、製図内容はオフィスビルに囲まれた高容積率地における1階+2階+基準階型になると思われます。

パターン2の理由は、国土交通省の資料においてオフィス改革の方策としてサテライトオフィスの導入が謳われているからです。この場合、周辺環境はオフィス、商業、公園などが想定され、製図内容は低容積率地における1階+2階+3階型になると思われます。

部門分け

次に部門分けです。

部門分けは、いままで紹介した考察に基づき、通常の賃貸・所有オフィス部門(フリーアドレス、リフレッシュルームを含む)、フレキシブルオフィス部門(シェアオフィスなど)、社会参画部門(託児所、医療クリニック、フィットネスなど)などに分かれるのではないでしょうか。

なお、地下駐車場など駐車スペースを大々的に要求する課題はなされないと思っています。というのも、試験元である国土交通省がこの一級建築士試験で問いたいのは、如何に駐車スペースを上手く設計するのかではなく、次世代のオフィス空間をどう考えるかだからです。

計画の要点等

最後に計画の要点等です。

こちらでは、公表課題で「二酸化炭素排出量削減」が特記されていることもあり、一次エネルギー消費量を抑えるために行った方策を問われる可能性が高いと考えています。

この対策として、国土交通省の資料をよくみつつ、断熱性サッシ・ガラス、太陽光発電、高効率空調設備、LED照明などの有効な方策を一つでも多く把握しておきましょう。また、令和元年の学科でも出題されているCASBEEの考え方についても見直しておきましょう。

まとめ

こちらの記事では、令和4年一級建築士試験の製図課題である「事務所ビル」の課題背景と、試験のポイントを考察してみました。対策しなければいけない範囲が広そうに見える課題でも、その背景を知ることによって的を絞った勉強が可能です。特に、試験の総本山である国土交通省の政策に関する資料は目を通しておくようにしましょう。

最後に、事務所ビルとなった背景と試験のポイントをまとめるとこちらとなります。

課題の背景
  • コロナ禍に伴うテレワークの増加
  • オフィス改革の推進
  • 「建築物のエネルギー消費性能の向上に関する法律」に伴う二酸化炭素排出量の削減
試験のポイント
  • フレキシブルオフィス(シェアオフィス)
  • 国土交通省が推進するオフィス改革(フリーアドレス、リフレッシュルーム、託児所など)
  • 一次エネルギー消費量の削減
設計条件の可能性
  • 立地条件:都心の事務所ビル、または郊外の事務所ビル(サテライトオフィス)
  • 部門分け:通常の賃貸・所有オフィス部門、フレキシブルオフィス部門、社会参画部門
  • 計画の要点等:一次エネルギー消費量を抑えるために行った方策
Kuro
Kuro

最後までご覧いただきありがとうございました!


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