一級建築士試験(設計製図)に合格するためのポイントと必要な能力について解説します

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一級建築士

こんにちは、独学家(セルフ・ラーナー)のKuroです。

このブログでは、独学での大学受験や資格試験、海外留学についてのノウハウを発信しています。

こちらの記事では、一級建築士試験の学科・製図ともに独学で一発合格したKuroが、製図試験に合格するためのポイントと必要な能力、について紹介します。

はじめに

一級建築士試験についてインターネットで検索すると、学科は独学で突破可能だけれども設計製図は難しい、という記載をよく見かけます。

確かに、設計製図は評価内容が定かではなく、どのような製図ならば合格できるのか、という基準が明確になっていません。また、自身の設計製図にどのような改善点があるのか、また上手くできている点は何なのか、ということがわからず、果たして合格レベルの設計製図となっているのか判断が難しいのも事実です。

そのため、資格学校へ通ってプロに添削してもらうことにより、自身の設計製図を改善し続けなければ、合格は難しいと言われています。

しかし、私は学科試験に加えて製図試験も独学で合格しました。当時、私は海外に駐在していたため資格学校へ通う選択肢はなく、また添削サービスも使用しませんでした。そのような環境下でも合格できたのは、自分なりに合格に必要な要素を考えた上で、練習を継続したからだと考えています。

Kuro
Kuro

この経験を踏まえて、私が考える設計製図に合格するためのポイントや、必要な能力について紹介します。

設計製図試験の合格基準

設計製図に合格するために必要な能力を分析する前に、そもそも設計製図試験はどのように採点されるのでしょうか。

採点のポイントと結果区分

ブラックボックスといわれる製図試験ですが、実は(公財)建築技術教育普及センターに採点のポイントが載っています。

令和3年の採点のポイントを見ると、次の4つの採点ポイントに分かれていることがわかります。

  1. 空間構成:①建築物の配置・構造計画、②ゾーニング・動線計画、③要求室等の計画、④建築物の立体構成等
  2. 建築計画:①各住戸内の採光及び入居者のプライバシー等に配慮した計画、②要求室の機能性等、③図面、計画の要点等の表現・伝達
  3. 構造計画:①耐震性を考慮して計画した建築物の構造形式・耐震計算ルート等、②屋上庭園の構造の計画、③地盤条件や経済性を踏まえた基礎構造の計画
  4. 設備計画:①各住戸内の給排水計画、②各住戸内の給排気計画

また、設計条件・要求図面等に対する重大な不適合として、次の項目が記載されています。

  1. 「要求図面のうち1面以上欠けるもの」、「面積表が完成されていないもの」又は「計画の要点等が完成されていないもの」
  2. 地上5階建てでないもの
  3. 図面相互の重大な不整合(上下階の不整合、階段の欠落等)
  4. 建蔽率が70%を超えているもの
  5. 容積率が300%を超えているもの
  6. 次の要求室・施設等のいずれかが計画されていないもの(割愛)
  7. 法令の重大な不適合等、その他設計条件を著しく逸脱しているもの(「延焼のおそれのある部分の位置(延焼ライン)と防火設備の設置」、「防火区画(異種用途区画、面積区画、竪穴区画等)」、「道路高さ制限」等)

これらの採点ポイントを踏まえて、採点結果は4つのランクに分けられます。

  • ランクⅠ:「知識及び技能」を有するもの(合格)
  • ランクⅡ:「知識及び技能」が不足しているもの(不合格)
  • ランクⅢ:「知識及び技能」が著しく不足しているもの(不合格)
  • ランクⅣ:設計条件及び要求図書に対する重大な不適合に該当するもの(不合格)

以上の採点ポイントを踏まえると、「設計条件・要求図面等に対する重大な不適合」をしてしまうと、即ランクⅣで不合格になってしまうことがわかります。これは、いかに意匠に富んだ建築を設計したとしても、それが施主の要求(階数が異なるものや、要求室・施設等が計画されていない)から大きく外れていたり、非合法であるもの(建蔽率、容積率、高さ制限、防火などの違反)は、そもそも評価すらされないということになります。

そのため、設計製図試験を突破するためには、必ず施主の主要な要求を酌みつつ、合法な建築を製図する必要があります。

Kuro
Kuro

逆を言うと、施主の主要な要求を酌んだ合法な建築を製図することができれば、合格できるかどうかという俎上に載ることができるのです。

採点ポイントの構成

次に、4つの採点ポイントを改めてみてみましょう。

一級建築士の製図試験における採点ポイントの構成。空間構成、建築計画、構造計画、設備計画、という4つのポイントに分けられる。

これら4つの採点項目は、建築技術教育普及センターから見ることができる過去10年の採点ポイントを見ても、全て同じ採点項目が使用されていることがわかります。つまり、試験元はこの4つの観点を常に重要視しており、これらの観点から上手く計画できれいれば、ランクⅠで合格できるということです。

また、これら4つの採点項目は、掲載されているこの順番で、採点の比重が大きいと考えて良いと思います。

空間構成 > 建築計画 > 構造計画 > 設備計画

では、次に各々の採点項目を見ていきましょう。

空間構成

まず初めに空間構成です。

空間構成は建築物の配置計画や、ゾーニング、動線計画に代表されるように、計画された建築物は外部環境に調和しており、建築物自体が不自由なく使用できるかどうか、という観点から評価されています。

空間構成は次の4項目で採点されており、これは過去10年間変わっていません。製図試験は空間構成がカギといわれる所以です。

  • 建築物の配置・構造計画
  • ゾーニング・動線計画
  • 要求室等の計画
  • 建築物の立体構成等

また、これらの項目は主に図面で表現されるものです。場合によっては記述で補足説明させられる場合もありますが、図面で表現できてさえいれば記述は容易に書けるため、やはり図面で表現・評価されるものといえます。

記述で問われる際の例
  • 令和2年「居住部門及び居宅サービス部門のスタッフルーム等介護に必要な諸室の配置について考慮したこと」
  • 平成30年「利用者の靴の履き替え等を考慮した、各部門のゾーニング及び動線計画について特に考慮したこと」「本建築物と隣地のカルチャーセンター等とを一体的に使用できるようにするために特に考慮したこと」、など

建築計画

次に建築計画です。

建築計画は、計画された建築物は快適に使用されることができるかどうか、という観点から評価されています。採点ポイントをみてみると、平成29年以降、必ず評価されているポイントと、課題に応じた固有の採点ポイントが掲げられています。

必ず評価されるポイント

  • 要求室の機能性等
  • 図面、計画の要点等の表現・伝達

課題に応じて評価されるポイントの例

  • 令和元年「自然光の取入れ方や自然換気の工夫」「日射負荷の抑制」
  • 平成29年、平成30年「建築物のパッシブデザインの計画」、など

これらの項目は主に図面で表現されますが、近年は記述で補足説明させることも多くなっている印象です。

記述で問われる際の例
  • 令和2年「居住部門の個室の計画において、「入居者のすみやすさ」及び「介護のしやすさ」について考慮したこと」
  • 令和元年「吹抜け及びその周囲の空間において、多くの自然光を取り入れるために、平面・断面計画や開口部について工夫したこと」
  • 平成30年「エントランスホール及び 1 階から 3 階までの吹抜け並びにそれらの周囲の空間における自然採光の確保と空調用エネルギーの抑制を実現するために、ガラス面及び開口部の位置、平面計画、断面計画等について工夫したこと」、など

構造計画

3番目に構造計画です。

構造計画は、計画された建築物は耐震性があり、且つ経済性も考慮しているか、という観点から評価されています。

構造計画は、「構造種別、架構形式及びスパン割り等の計画」を中心として、建築物全体の構造計画が採点ポイントとなっています。また、近年は細部の構造計画もポイントとして挙げられてきています。

また、これらの項目は、製図で表現できるもの(スパン割りや、基礎構造など)と、記述でのみ表現できるもの(部材の断面寸法の計画や、振動及び騒音対策などの細部の構造計画)があります。

記述で問われる際の例
  • 令和2年「地盤条件や経済性を踏まえた、支持層の考え方、採用した基礎構造とその基礎底面のレベルについて考慮したこと」
  • 令和元年「屋上庭園における断面の構造等計画について考慮したこと」
  • 平成30年「温水プール室の構造計画について特に考慮したこと」、など

設備計画

最後に設備計画です。

設備計画は、計画された建築物は、建築規模や要求室の性能を踏まえた設備を採用しているかどうか、という観点から評価されています。

設備計画も構造計画と同様に、建築物全体としての設備計画と、特定の要求室における設備計画が採点ポイントとして挙げられています。

注:平成28年以前は、自然エネルギーの利用方法とその省エネルギー効果や、自然採光及び自然換気の利用などが問われていました。しかし、これらのポイントは平成29年以降、建築計画における採点ポイントへ移行しています。

また、これらの項目は、製図で表現可能なものもありますが、イメージ図を含めた記述でのみ表現できるものが多い印象です。

記述で問われる際の例
  • 令和3年「住戸内の給排水について工夫したこと」「住戸内の給排気について工夫したこと」
  • 令和2年「インフルエンザやノロウイルスへの対策について、建築計画や設備計画において考慮したこと」
  • 令和元年「多目的展示室の空調用吹出し口の設置位置を一つ以上選択し、その位置とした理由及び配慮したこと」、など

採点ポイントの表現手法

以上をまとめると、こちらのテーブルのようになります。

採点ポイント表現手法
空間構成製図を中心として表現
建築計画製図を中心として表現
構造計画製図と記述で表現
設備計画記述を中心として表現
採点ポイントとその表現手法

4つの採点ポイントのうち、空間構成、建築計画、構造計画、設備計画の順番で採点の比重が高いと思われることを考えると、やはり製図の出来栄えが合否を左右するといえるでしょう。

設計製図に合格するために必要な能力

では、採点ポイントを上手く満たして設計製図試験に合格するためには、どのような能力が必要でしょうか。

私は、プランニング力製図力記述力、の3つが必要だと考えています。

製図試験合格に必要な3つの能力は、プランニング力、製図力、記述力の3つである。

プランニング力

まず、最も大切なのがプランニング力です。

プランニング力は、設計条件を上手く読み取って、それを建築空間に上手く落とし込む能力となります。

プランニング力は、採点上重要と考えられる空間構成と建築計画を中心として、全ての採点ポイントに影響するものです。このプランニング力がないと、外部空間と調和しない建築物となってしまったり、明確なゾーニング分けができずにユーザーが建築物を使用する上で不自由が生じてしまいます。こうなると、空間構成と建築計画の採点過程で大きく得点を落としてしまいます。

製図力

次に必要なのが製図力です。

製図力は、プランニングした内容を的確に図面の中で表現する能力となります。

製図力も、建築計画と空間構成を中心として、全ての採点ポイントに影響するものです。折角上手くプランニングできていたとしても、それを図面上で上手く表現できなかったり、図面を書くのに時間を要してしまい、中途半端な図面となってしまったら、採点者に要点が伝わらず、建築計画を中心として得点を落としてしまいます。

記述力

最後に必要なのが記述力です。

記述力は、プランニングした内容を簡潔に言葉で表す能力であり、製図で表現されている内容と表裏一体をなすものです。

記述力は構造計画、設備計画を中心とした採点ポイントに影響するものです。自身のプランニングの意図をわかりやすく言葉で伝えつつ、且つ製図の内容と矛盾しない記述でなければ、得点を落としてしまいます。

まとめ

以上をまとめると、次のテーブルのように表されます(必要な能力はKuroの主観です)。

採点ポイント表現手法必要な能力
空間構成製図を中心として表現プランニング力:★★★
製図力    :★★★
記述力    :★
建築計画製図を中心として表現プランニング力:★★★
製図力    :★★★
記述力    :★★
構造計画製図と記述で表現プランニング力:★★
製図力    :★★
記述力    :★★★
設備計画記述を中心として表現プランニング力:★
製図力    :★
記述力    :★★★
採点ポイント、表現手法、必要な能力の関係性

このように、プランニング力、製図力、記述力を鍛えて、製図と記述を適切に表現し、採点ポイントを満たすことができれば、独学でも設計製図試験に十分挑戦することができるでしょう。


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