一級建築士試験(製図)における課題文と採点ポイントとの関係を考えます

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一級建築士

こんにちは、独学家(セルフ・ラーナー)のKuroです。

このブログでは、独学での大学受験や一級建築士試験、海外留学についてのノウハウを発信しています。

こちらの記事では、一級建築士試験の学科・製図ともに独学で一発合格したKuroが、留意事項・計画の要点等と、採点ポイントとの関係性、について考えてみます。

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はじめに

一級建築士の製図試験は、6時間半という長丁場に亘って、「図面」と「計画の要点等」という二つの答案用紙に取り組みます。

よい設計製図の内容とするためには、課題文の要点、特に留意事項を読み解き、要求室を適切にゾーニングすることが求められます。

また、回答内容は「採点のポイント」という評価項目に沿って採点され、合否が決まることとなります。

こちらの記事では、「課題文の留意事項」と「計画の要点等」、そして「採点のポイント」との関係性を、令和3年の課題を例にとって考えてみます

これらの関係性を把握することにより、製図試験の枠組みをより深く理解することができるでしょう。

留意事項・計画の要点等・採点のポイントの概要

各々の関係性を紹介する前に、留意事項・計画の要点等・採点のポイントの概要について簡単に説明します。これらの詳細は他の記事でも説明していますので、そちらも是非ともご覧ください。

課題文の留意事項とは

課題文において留意しなければいけない項目

課題文の留意事項とは、課題文の「Ⅰ.設計条件 課題の背景」、「Ⅰ.設計条件 2.建築物」、「Ⅰ.設計条件 4.留意事項」に記載されている、設計する上で配慮しなければいけない事項です。

要求室を配置するにあたり、これらの事項を配慮しなければ、ちぐはぐな配置となってしまい、よい設計とすることができません。

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計画の要点等とは

課題文における計画の要点等

計画の要点等とは、答案用紙Ⅱに記載する内容であり、「記述」とも呼ばれます。例年10問程度の質問があり、図面と合わせて6時間半以内に回答する必要があります。

答案用紙Ⅰ(図面、面積表)を補足するための要点や、図面では表現しきれない事項(構造や設備など)を説明するために使用されます。

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採点のポイントとは

採点のポイントとは、(公財)建築技術教育普及センターが毎年、製図の合否発表と合わせて公表するものです。

例年、空間構成、建築計画、構造計画、設備計画の4項目から採点されており、各項目の評価軸はその年によって若干異なっています。

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留意事項・計画の要点等と、採点ポイントとの関係

令和3年の設計課題説明

それでは、留意事項・計画の要点等と、採点ポイントとの関係を紹介したいと思います。

令和3年の事例

こちらのテーブルは、令和3年の「設計条件 課題背景」「Ⅰ.設計条件 4.留意事項」「Ⅱ.要求図書 3.計画の要点等」「建築物の計画に当たっての留意事項(課題公表の再掲)」と、採点ポイントである「空間構成」「建築計画」「構造計画」「設備計画」の関係性を示したものです(採点ポイントへの当てはまりはブログ主であるKuroの主観です)。

留意事項・計画の要点等空間構成建築計画構造計画設備計画
Ⅰ.設計条件 課題背景
住宅部門の各住戸の居室は、通風・採光、遮音等、よりよい住環境を考慮した計画とする。
住宅部門の住戸A及び住戸Bは、在宅勤務を考慮した計画とする。
住宅部門の入居者同士が交流できる共用室を設ける。
テナント部門は外部から利用しやすい計画とするとともに、住宅部門との動線やプライバシーに配慮した計画とする。
Ⅰ.設計条件 4.留意事項
住戸の居室については、建築基準法上の採光を確保したうえで、適切に計画する。
構造計画については、次の点に留意して計画する。
① 基礎構造については、地盤条件や経済性を踏まえ適切に計画する。
② 耐震性や経済性に配慮し、架構を計画する。
設備機器等の搬出入、更新及びメンテナンスに配慮して計画する。
建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分には、所定の防火設備を適切に計画する。また、防火区画(異種用途区画、面積区画、竪穴区画等)が必要な部分には、所定の防火設備を適切に計画する。
地上に通ずる2以上の直通階段を適切に計画する。また、必要に応じて、「敷地内の避難上必要な通路」を適切に計画する。
計画に際し、「建築基準法第56条第7項(天空率)」、「建築基準法施行令第5章の3(避難上の安全の検証)」等の規定を適用する場合には、「答案用紙Ⅱ」の裏面にその計算過程及び結果を記入する。
Ⅱ.要求図書 3.計画の要点等
住戸A又は住戸Bについて、住戸内平面図(縮尺1/100程度、イラストでも可。必要に応じて断面図で表現)を【イメージ図記入欄】に示したうえで、下記の①~④についてそれぞれ記述する。
① 各居室の採光について考慮したこと
② 在宅勤務について考慮したこと
③ 住戸内の給排水について工夫したこと
④ 住戸内の給排気について工夫したこと
住戸間の床や界壁の遮音対策について工夫したこと
屋上庭園(出入口・通路及び植栽範囲)について、断面の構造等を【イメージ図記入欄】に示したうえで、下記の①~③について考慮したことをそれぞれ記述する。
① 梁断面、スラブ位置・厚さ
② 段差処理
③ 緑化計画、防水
建築物の構造計画について、建築物の特性に応じて採用した耐震計算ルートとそれらを採用するに当たり、耐震性を確保するために架構計画等について考慮したこと
地盤条件や経済性を踏まえて採用した基礎構造とその基礎底面のレベルについて考慮したこと
建築物の計画に当たっての留意事項(課題公表の再掲)
敷地の周辺環境に配慮して計画する。
バリアフリー、省エネルギー、セキュリティ等に配慮して計画する。
各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
構造種別に応じた架構形式及びスパン割りを適切に計画するとともに、適切な断面
寸法の部材を計画する。
空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、昇降機設備等を適切に計画する。
課題文の留意事項・計画の要点等と、採点ポイントとの関係性

こちらのテーブルを見ると、課題文の留意事項である「設計条件 課題背景」「Ⅰ.設計条件 4.留意事項」「建築物の計画に当たっての留意事項(課題公表の再掲)」では、4つの採点ポイント(空間構成、建築計画、構造計画、設備計画)が広く述べられているものの、答案用紙Ⅱで記述する「計画の要点等」では、主に3つの採点ポイント(建築計画、構造計画、設備計画)しか述べられていません

つまり、令和3年について言うと、計画の要点等は、建築計画、構造計画、設備計画の採点ポイントの対象となるものの、空間構成の採点にはあまり影響しないことが考えられます。

では、空間構成はどこで評価されるのでしょうか?それは、言うまでもなく図面(答案用紙Ⅰ)です。図面を用いて、空間構成に関するこちらの採点ポイントが評価されているのです。

空間構成の採点ポイント

  • 建築物の配置・構造計画
  • ゾーニング・動線計画
  • 要求室等の計画
  • 建築物の立体構成等

課題公表の重要性

ここで少し余談です。

お気付きの方もいるかと思われますが、課題文において【建築物の計画に当たっての留意事項(課題公表(〇/〇)の再掲)】という項目が、令和2年以降に記載されるようになりました。

これは事前の課題公表において述べられているこちらの留意事項を、課題文の中で再掲したものです。

  • 敷地の周辺環境に配慮して計画する。
  • バリアフリー、省エネルギー、セキュリティ等に配慮して計画する。
  • 各要求室を適切にゾーニングし、明快な動線計画とする。
  • 建築物全体が、構造耐力上、安全であるとともに、経済性に配慮して計画する。
  • 構造種別に応じた架構形式及びスパン割りを適切に計画するとともに、適切な断面寸法の部材を計画する。
  • 空気調和設備、給排水衛生設備、電気設備、昇降機設備等を適切に計画する。

では、なぜ事前の課題公表において説明されている留意事項が、令和2年以降に課題文の中でも述べられるようになったのでしょうか。

事前の課題公表における留意事項は、間違いなく採点ポイントと直結する重要事項です。しかし、これはあくまでも推測ですが、令和元年以前はこの重要事項が課題本文に記載されていなかったため、受験者にとって採点ポイントがわかりにくい(課題本文に掲載されていないため、事前に掲載されている留意事項は配慮するべきなのかどうか、という疑問が湧く)状況だったのではないでしょうか。そのため、事前の重要な留意事項を、課題本文でも再掲することにより、受験者へ採点ポイントを意識させているのだと思います。

まとめ

こちらの記事では、令和3年を例にとって、「課題文の留意事項」「計画の要点等」と、「採点ポイント」との関係について分析してみました。その結果、令和3年の課題では、計画の要点等では建築計画、構造計画、設備計画が評価されている一方で、空間構成に関する評価は少ないということがわかりました。

なお、あくまでもこれは令和3年を例にとったものです。過去問をみてみると、年によっては「計画の要点等」においても空間構成を評価しています(例えば平成30年の一体的利用など)。そのため、計画の要点等と採点ポイントとの関係性は一律に述べることはできず、年によって若干のばらつきがあるということが事実かと思います。

しかし、空間構成は図面を中心に評価される一方、図面では表しきれない構造計画や設備計画の詳細は、図面のみならず計画の要点等を用いて評価されているのではないかと思われます。

独学者にとって、一級建築士の製図試験はブラックボックスのように感じられるかもしれません。しかし、このように、課題文の留意点・計画の要点等が採点ポイントへ与える影響を把握することで、一級建築士の製図試験というものを、より俯瞰的に眺めることができるでしょう。


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